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ABMは体験へ。2026年のBtoB勝機を掴むABX(アカウントベースドエクスペリエンス)の始め方

低予算でも効果的なBtoBデジタルマーケティング施策 

 

ABXという言葉を目にする機会が増えてきました。ABM(アカウントベースドマーケティング)の次のステップとして語られることが多いですが、「ABMとどう違うのか」「何から手をつければいいのか」が整理できていないまま、という方も多いのではないでしょうか。本記事では、ABXの実施に向けて実際に動き始めているプロセスを、効率よく再現できるようにまとめてみました。

こんな課題の解決のヒントに!

  • マーケと営業が連携できておらず、連携のタイミングや方法を模索している。
  • ABXという言葉は聞くが、ABMとの違いと自社への適用イメージがつかめない。

なぜ今、ABMではなく「ABX」なのか?

ABM(アカウントベースドマーケティング)が日本のBtoB市場に本格的に浸透し始めてから、すでに数年。リストを整備し、ターゲットアカウントへの広告配信やメールシーケンスを組んでいますが、なかなか商談が増えない——という反省点からABXという概念が生まれました。

ABMが「誰に・何を届けるか」というターゲティングと施策の話であるとすれば、ABXは「そのアカウントが自社とどんな体験をするか」という顧客体験の設計全体を指します。施策の精度を上げるのではなく、アカウントとの関係性そのものを再設計するという発想の転換です。

ターゲティングだけでは勝てない、コンテンツ飽和時代の課題

2026年現在、BtoBの意思決定者はターゲティング広告に慣れています。LinkedInで役職を登録すれば、翌日には競合他社の広告が並びます。メールボックスにはシーケンスメールが毎週届きます。この環境で、精緻なターゲティングは差別化になりません。同じことをより丁寧にやっているだけでは、相手のノイズを増やすだけかも・・・。

ABM(手法)からABX(体験)へ

 ABXは、ターゲットアカウントに対して「この会社は、自分たちのことをわかっている」という感覚を与える体験の設計から始めます。広告クリエイティブの話ではなく、コンテンツの粒度、営業のアプローチタイミング、商談後のフォロー内容まで含めた一貫したコミュニケーション設計が軸になります。 

ABMは「誰を狙い、どのチャネルで接触するか」というマーケティング施策の最適化です。ABXはそこに「購買後の体験・成功体験・継続体験」まで含め、アカウントとの長期的な関係構築を設計する概念です。ABXは、マーケティング部門だけで完結せず、営業・カスタマーサクセスをまたぐ組織全体の動き方を変える取り組みになります。

【補足:日本市場における現状認識】
2026年時点で「ABX」という名称を社内用語として使っているBtoB企業はまだ少数派です。しかし実態として、インテントデータを活用した商談優先度づけ、パーソナライズされたコンテンツ提供、CS(カスタマーサクセス)を組み込んだアカウント育成を実践している企業は増えています。「ABXを始める」とは、新しいツールを入れることではなく、これらをバラバラに動かすのではなく統合して設計し直すことを意味します。

 B2Bマーケティングの施策全体を把握したい場合は、B2Bマーケティングの効果的な施策まとめも合わせてご覧ください。 

ABXを成功させる「インテントデータ」の活用術

ABXを実装に落とすうえで、最初に向き合うべきデータがインテントデータです。インテントデータとは、特定の企業が自社の製品カテゴリや競合に関するコンテンツをどの程度検索・閲覧しているかを示すシグナルのことを指します。「今、このアカウントは何かを検討している」という購買意欲の気配を、行動データから読み取る試みです。

インテントデータを活用するための準備として、まずコンテンツをマーケティングファネルの段階に沿って分類することが有効です。具体的には「情報収集」「比較検討」「決定」の3段階です。

情報収集の段階は、課題が顕在化するかしないかの段階で、まだパートナー選定や予算執行には少し遠い状態です。比較検討の段階は、必要性を感じてパートナーを探し始め、複数社の事例や特徴を比べている状態です。決定の段階は、まさに予算を執行しようとしており、ROIの資料や具体的なサービス内容・料金などを確認したい状態です。

この分類ができると、行動データとの紐付けが可能になります。たとえば、決定段階のページを一度の訪問で複数閲覧し、資料ダウンロードまで至ったリードに対して、ミーティングリンクを発行してアポイントを促す、といったアクションが設計できます。訪問ページの種類から「今どの検討段階にいるか」を読み取り、次のアクションを変えることがインテントデータ活用の核心です。

Cookieレス時代のファーストパーティデータ活用

サードパーティCookieの廃止が現実となった今、外部ベンダーから購入するインテントデータだけに頼るのはリスクが高いです。2026年の現場で重要性が増しているのは、自社サイトの行動ログ、ウェビナーへの参加履歴、メール開封・クリック履歴といったファーストパーティデータを「インテントシグナル」として活用することです。

 HubSpotSalesforceといったCRM・MAツールには、こうした行動データを蓄積する機能がすでに備わっています。問題は、それらが整理されていないことが多い点です。ツールを新たに導入する前に、既存のCRMデータのクレンジングと項目設計の見直しから入ることをおすすめします。

【実務メモ:トリガー設計で陥りやすい罠】
トリガーの数を増やしすぎると、営業へのアラートが多発して「どれも対応しなくていいもの」という認識になってしまいます。最初は「この1つのシグナルだけは確実に対応する」という1点集中から始め、実績と信頼を積み重ねながら拡張するアプローチが現実的です。

営業を巻き込む!ABX導入の3つの壁と突破策

ABXが「組織の文化を変える取り組み」である以上、最大の障壁は技術でもツールでもなく「人」です。特に、日本のBtoB企業では営業とマーケティングの分断が根強いです。ABXを現場に着地させようとすると、必ずといっていいほど3つの壁にぶつかります。

壁1:マーケと営業の「ターゲット認識」のズレ

マーケティング部門が設定したターゲットリストと、営業が「攻めたい先」は、驚くほど一致しないことがあります。マーケはWEBサイトのトラフィックや業種・規模などのデモグラフィックデータからリストを作ります。営業は過去の成約実績や個人的な人脈から優先度を判断します。この認識ズレを放置したまま施策を展開すると、マーケが送ったコンテンツに対して営業がフォローしない、という最悪の状況が生まれます。

ズレを解消するには、定期的に両者が同じ目線でアカウントリストを確認し合う場が必要です。マーケティングがデータで提案し、営業が現場感覚でフィルタリングし、合意したリストを共同で保有する——このプロセス自体が、組織の連携を深める場になります。頻度や形式は自社の文化に合わせて決めるのが現実的で、月次の短い確認でも十分機能します。

壁2:個別最適化されたコンテンツ制作の工数

ABXの理想は「アカウントごとのパーソナライズ」ですが、それを愚直に実践すると制作工数が増大します。現実解は「パーソナライズの粒度を階層化する」ことです。全アカウント共通のコンテンツ、業種別にカスタマイズされたコンテンツ、特定の最重要アカウント(Tier1)向けの完全オーダーメイドのコンテンツ、という3層構造で制作体制を組むことで、効率と精度を両立できます。

なお、コンテンツをまだ整備していない段階であれば、量産に入る前に分類方法を定義することをおすすめします。前述の「情報収集・比較検討・決定」の3段階を自社の商材・顧客行動に合わせた形で定義してから制作に入ると、後から整理し直す手間が省けます。

【経験談:コンテンツ分類から始めた理由】
前期にコンテンツを一通り整備しましたが、分類の定義を先に決めておいたことで、インテントデータとの紐付けがスムーズでした。まだ足りていない部分はありますが、「どの段階のコンテンツが薄いか」が可視化されているので、優先順位をつけやすい状態です。

壁3:短期的なリード数への固執

ABXは短期のリード獲得ではなく、質の高いアカウントとの関係構築に時間をかけるアプローチです。経営や上位職が「月次リード数」だけを追い続ける限り、ABXは根付きません。KPIの再設計と合わせて、レポーティングの中身を変えることが重要です。

マーケティング部門がよりがちなのは、トレンドや傾向を語るレポートです。「先月はセッションが〇%増えました」「特定の記事のPVが伸びています」といった内容は、営業視点からすると意思決定に使えません。求められるのは、「ターゲットアカウントのうち、今月エンゲージメントが上がっている企業はどこか」「どのコンテンツを経由して商談に近づいているか」という、アクションに直結する情報です。

定例会議では、ターゲットアカウントの動きを企業単位で報告することが営業との連携を深めます。「A社の担当者が今月3回ページを閲覧し、料金ページにも到達しています」という粒度の報告が、営業のアクションを引き出します。KPI指標としては「パイプライン金額に占めるターゲットアカウント比率」「ターゲットアカウントのエンゲージメントスコア推移」なども参考になります。なお、マーケティングKPIを営業と連携させる際の考え方については、こちらの記事でも詳しく解説しています。 

未経験からABX戦略を立てるための準備編3ステップ

ABMの実績がないままABXを始めるにあたっては、データ基盤の棚卸から丁寧に進めることが重要と考えます。

ステップ1:CRMデータのクレンジングと会社情報の正規化

HubSpotで運用している場合、必要な企業情報が歯抜けになっていることは珍しくありません。(MAツールの選び方・比較はこちら)業種・従業員数・売上規模といった基本属性が入力されていないケースも多く、ABXの設計に必要なセグメント条件が揃っていない状態のまま運用が進んでいることがあります。

また、フリーメールアドレス(Gmailなど)でのフォーム送信を許可している場合、コンタクトがGoogle社に紐づいた状態になってしまいます。個人と会社の紐づけを正しく整理することが、名寄せの精度に直結します。

【Tips:企業情報は外部サービスで補完できます】
CRMの企業情報が不足している場合、外部の法人データベースサービスを活用して一括補完する方法があります。日本市場で実績のある主なサービスは以下の3つです。

uSonar(ユーソナー):国内820万拠点超の法人データ「LBC」を保有。名寄せ・クレンジング機能が高精度で、HubSpotやSalesforceとの連携実績も豊富。グループ企業・親子関係まで把握できる点が特徴です。

SalesNow:540万社以上の企業データベースを持ち、HubSpotとの2クリック連携が可能。コンタクトと会社の自動名寄せ、重複チェックの自動化に強みがあります。法人番号ベースで70項目以上の情報を補完できます。

SalesRadar(セールスレーダー):CRM・SFA・MAとの自動連携に対応した企業データベースサービス。AIと110万社のデータを掛け合わせた類似企業抽出機能や、タイミングキャッチ機能が特徴で、営業リスト作成からアプローチタイミングの最適化まで対応します。

ステップ2:Tier1アカウント(最重要ターゲット)の選定と営業との合意形成

最初から多くのアカウントを対象にする必要はありません。まず10社程度に絞り込み、「なぜこのアカウントをターゲットにするのか」の仮説を、マーケティングと営業が共同で言語化することが重要です。

ここで大切なのは、リストをマーケティングが一方的に作るのではなく、営業との合意を取ることです。選定基準(業種・規模・検討タイミングなど)をすり合わせ、両者が「このアカウントに注力する」と納得したリストを作ることが、後の施策の実行精度に直結します。マーケティングがデータで提案し、営業が現場感覚でフィルタリングする形が、実務的には機能しやすいです。

ステップ3:Tier1アカウントのジャーニーを営業と一緒に設計する

「このアカウントは今どのフェーズにいるか」「次に何を感じてほしいか」「そのために何を届けるか」を、マーケと営業が同席して議論します。ツールや資料を使う前に、まずこの対話から始めることをおすすめします。ペルソナとカスタマージャーニーの設計手順についてはこちらの記事も参考にしてください。

特に重要なのは、営業が持っている「このアカウントの温度感」をマーケティングが受け取る場を作ることです。過去の接触履歴やメールのやり取り、商談メモに残された情報から、ジャーニーの現在地は想像以上に見えてきます。ABXの設計は、システムの話よりも先に、この対話の質が成否を分けます。

ABX設計の第一歩は「データ整備」から始まります。
lifemarkety.comでは、HubSpotを活用したファーストパーティデータの整備方法と、アカウントスコアリングの設計手順について詳しく解説しています。まずは自社のCRMデータの現状確認から始めてみてください。

この記事を書いた人[ABOUT

IT・デジタルマーケティング領域で20年以上の実務経験。現在は、デジタルマーケティングの組織浸透や業務効率化を担当しています。
「予算がない」「人が足りない」「MAツールを入れたけれど活用しきれない」「営業の協力が得られない」といった、理想通りにいかない実務の壁を数多く経験。今日も奮闘中です。